コラム

【ELPASO会員コラム43-2】「知性」とは何か?

2026年6月26日

事務局

2026.6.26
丸和育志会理事 坂根秀和

いきなりですが・・・

コラーゲンの話をします。多分あまり皆さんご存知でないと思うのですが、人間の体重の約20%はタンパク質でできておりまして、そのタンパク質全体の約30%はコラーゲンです。

部位別に見ると、皮膚の土台である真皮(しんぴ)の約70%、骨の約20%がコラーゲンで構成されています。とくに肌においては、弾力やハリをもたらす土台になっているのがコラーゲンです。

コラーゲンは、三重らせん構造をしています。私たちの体の設計図であるDNAは二重らせん構造ですから、DNAよりも頑丈で壊れにくい性質を持っています。

コラーゲンが多く含まれる料理を食べると翌朝の肌がプリプリになる、と言われますし、コラーゲン配合のサプリや健康食品、またコラーゲンを配合した化粧品などもたくさん発売されています。

しかし、これらを摂取したり、化粧品を使ったりしても、私たちの肌の弾力やハリにはほとんど影響がないと言う研究者もいます。

というのも、コラーゲンは頑丈で壊れにくいという性質があるため、いくら新鮮なコラーゲンを外部から与えても、私たちの体内のコラーゲンそのものに加わることなく、体外に排出されてしまうから、なんだそうです。

これは「会社の給湯室でベテランのOLさんたち数人がお喋りに夢中になっていて、新人のOLさんが給湯室に入っていけない」という状態に似ていると思います。

頑丈で壊れにくいコラーゲンは代謝が滞り、年齢とともに劣化します。コラーゲンは家にたとえると基礎部分や柱のようなものといわれます。外壁をきれいにしても、土台は老朽化・硬直化し、弾力やしなやかさが失われ、シワ、たるみ、関節の痛み、骨の脆さなどさまざまな老化症状を引き起こします。

ロラン・バルトの言説

このコラーゲンの話から、フランスの哲学者ロラン・バルト(1915–1980)の言説を思い出しました。

「無知とは知識や情報が足りない、ということではなく、知識が飽和されているせいで新しいものや未知のものを受け容れることができなくなった状態だ

まさに、頑丈なコラーゲンと同じような状態といえます。脳内の思考がガッチガチに固定化してしまい、さまざまなことをそのスキームに落とし込んで理解するため、スキームそのものを刷新できず、新しい知識や情報を受け入れることができないということではないでしょうか。

私自身も思い当たる節があります。自分の世界観のスキームが出来上がっていると、アップデートする必要がないので知的負荷が少なくて済みます。コスパ、タイパがいい。これは楽ですし、なんかかっこいい。自分自身の枠組みが頑丈なので、ズバッとキッパリとした見解を持っているので毅然とした態度も取れるでしょうし、相手を黙らせる、論破できちゃう。世の中のことは全てわかっているような発言ができますし、頭が良さそうに見える。過去の成功体験を「勝ちパターン」として語ることも可能です。

しかし、それはバルトに言わせると「反知性的」な態度ということです。知的パフォーマンス自体は衰えているのかも知れません。もはや脳内の給湯室はベテランのOLさんでギュウギュウです。

これは年配の人だけならともかく、若い人たちにとっても深刻な状態です。SNSでは「自分の好む情報」「自分に心地よい情報」ばかりが流れてきます。いわゆるフィルターバブルです。毎日膨大な量です。暇さえあればですから。もしかしたら若い人の脳内の給湯室も固定化された情報であふれているのではないでしょうか。

これに対して、知性的な人とは、未知のものに対して「自分はよく知らない」と認め、他人の意見を黙って聞き、得心がいったかどうかを自分の内側を見つめて判断する人といえるでしょう。そういう人は、自分の知的なスキームそのものをそのつど作り替え、知の自己刷新という新陳代謝を行っているのだと思います。

バカをやってないと、バカになる

さて、老化したコラーゲンはなかなか壊れませんが、このコラーゲンは「コラゲナーゼ」という酵素によって簡単に分解されます。頑丈な3重らせん構造が簡単に解けていき、私たちの体の中に新鮮なコラーゲンが新しくつくられていくのだそうです。

では、ガッチガチに固定化された自分のスキームを分解する「コラゲナーゼと同じようなアプローチ」はあるのでしょうか?

それは「自分は無知だ」と認め、人の話にしっかりと耳を傾けるだけでいいのではないかと思います。ソクラテスは2500年前に「無知の知」という「自分の知的スキームにおけるコラゲナーゼ」を発明していました。これはとても有効なアプローチではないでしょうか。

世界はかなり複雑です。ひとつのスキームですべてがわかる、ということはないし、正解もひとつではありません。知識や情報をコツコツと積み上げるより、いったん、自らの「先入観」や「思い込み」の解体を試みてみる。それだけで新しい世界が見えてきて、未知の好奇心が体内から湧き上がってくるのではないでしょうか。

かつて、音楽家の坂本龍一氏がインタビューで「自我が崩壊するのが気持ちいい」と発言していました。漫画家の赤塚不二夫氏は「バカをやってないと、バカになる」という名言を残しています。もしかしたら彼らは自然と「知性」がなんたるかを知っていたのかも知れません。

<用語解説>
フィルターバブルとは
フィルターバブル(Filter Bubbles)とは、SNSなどを通じて得られる情報が、自分が好きなものや興味のあるものに限られてしまう状態のことをいいます。検索エンジンやSNSのアルゴリズムによって、ユーザーの過去の行動履歴や興味関心に最適化された情報ばかりが表示され、無意識のうちに自分と似た意見や心地よい情報だけに囲まれてしまう現象のことです。これは、便利な機能といえますが、一方で、他の異なる意見や新しいトピックに触れる機会が大きく損なわれてしまいます。

似たような言葉で「エコーチェンバー」があります。エコーチェンバー(Echo Chamber)とは、SNSなどで自分と似た意見や価値観を持つ人たちとばかり交流し、同じ情報が反響するように繰り返されることで、自分の意見が世間の常識であるかのように錯覚してしまう現象を指します。



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