コラム

お酒を造るだけで社会課題の解決に?独自特許製法からソーシャルビジネスの輪を世界に拡大する「ナオライ」の「浄酎モデル」とは?

2026年6月4日

事務局

<ELPASOインタビュー:Vol.1>

文・構成:坂根秀和(丸和育志会理事)

三宅紘一郎さんは、丸和育志会の第12回丸和ソーシャルビジネス賞(2025年度)を受賞した起業家です。彼は2015年にナオライ株式会社を広島で立ち上げ、お酒を造るビジネスを展開しています。わかりやすくいうと「酒造りベンチャー」です。

ところで、皆さんは「酒造りベンチャー」と聞いて、どのようなイメージを持つでしょうか。

「若者たちが地元のお米を活用して日本酒を造る」とか「DXを活用し製造プロセスを効率化した酒蔵」とか「なんとなくおしゃれな雰囲気のお酒を造る」といったイメージを思い浮かべるのではないでしょうか。

今回ご紹介するナオライ株式会社は、そのどれでも形容できないユニークなビジネスモデルを展開しています。

ざっくりと申し上げると

「お酒を造ることで、社会課題を解決し、あらゆる地域の経済を活性化させ、世界に新しい価値を発信する」

というビジネスモデルです。

はて、どういうことでしょうか。というか、お酒をつくることで社会課題解決?そんなことが可能なのでしょうか。

お伝えしたい魅力がたくさんあるのですが、なるべく要点をつまんでご紹介したいと思います。


<目次>


「引きが強い」穏やかな青年

ナオライ株式会社の創業者であり代表取締役を務める三宅紘一郎さん。まず、この三宅さんという人物がなんとも不思議な魅力で溢れていることをお伝えしなければなりません。

彼は非常に「引きが強い」と思います。

三宅紘一郎さん

彼は、あらゆるジャンルのスペシャリストに繋がっています。お酒の業界、農家、ベンチャーキャピタルはもちろん、アートディレクター、ジャーナリスト、海外の事業家・・・ジャンルを超えた人たちが三宅さんのもとに現れる。そして、なぜか三宅さんを応援したくなるようです。

そのつながりが、ナオライの未来の射程をどんどん拡大していきます。それはただの絵空事ではなく、さまざまな人を巻き込み、また、本人も巻き込まれ、リアルな取り組みがどんどん進行しているのです。筆者も三宅さんに会うたびに新鮮な驚きにワクワクしています。

こういう事実から、三宅さんは丸和育志会の行動指針である「自分で考え、仲間をつくり、実践する」を体現している起業家だと断言して良いでしょう。

彼のやってきたこと、いま推進していること、未来に考えていることを伺うと「押しが強く、強烈な個性とカリスマ的な魅力が溢れる」いわゆる「やり手」な人物像を想像してしまいますが、そういうイメージとは全く真逆。

三宅紘一郎さん

三宅さんは人懐っこく、優しく柔和で素直な人物であり、腰が低く、人の話にじっくりと耳を傾ける柔軟性を持ち、初対面の人とも昔からの友人のように接することができる青年という印象を抱きます。

ですから、三宅さんの野望を聞くと、本人の人物像とのギャップに驚くはずです。大胆な発想と軽いフットワーク、好奇心と探究心、そして仲間を引き寄せる「引きの強さ」。ここまで言葉を並べてもおそらくそれは三宅さんという人物の一部しか紹介できていないと思いますが・・・

日本国内の酒蔵を救いたい

三宅さんが自分のブランドを作りたいと思ったきっかけは、そもそも「日本国内の酒蔵を救いたい」という想いからだといいます。

三宅さん:「私はたまたま広島の酒蔵の親族として生まれ、幼い頃から酒蔵に興味を持っていたんですが、日本酒業界はこの40年は1/3になっている業界。自分で酒蔵をやるとしても、この日本酒業界自体をなんとかしないと、と思いました」

事実、1970年に約4,000棟ほどあった国内の酒蔵は、2024年には約1,200棟ほどに減少してしまっているそうです。

三宅さんは自分のお酒を造るとしても、この市場自体の課題に向き合うことが重要であると考えたそうです。

彼は、大学時代から恩師のアドバイスもあり、いきなり上海で生活をはじめました。

三宅さん「単純に、市場を広げればいいんじゃないかと思い、約9年間上海で日本酒の販路など作っていました。しかし、やはり世界で勝てるブランドを作らないとと思いました。2015年に故郷である広島に帰って、ナオライという会社を作りました」

神事において神様にお酒を奉納して、その奉納したお酒をいただく行為を直会(なおらい)といいます。この直会にならい、「ありがたいお酒の使われ方」を事業を通して表現していきたいという思いから、社名を「ナオライ」としたそうです。

日本中の酒蔵が在庫となるように、お酒が全部価値に変わるんじゃないか

自分のお酒づくりを続けてきた三宅さんは、日本酒でも焼酎でもない、新しいお酒を生み出しました。

それが「浄酎」(JOCHU-ジョウチュウ)です。

神々しい姿を讃える「浄酎」。独特なボトルデザインはデザインアクティビスト太刀川英輔さん(NOSIGNER)によるもの。太刀川さんはボトルデザインのアートディレクションだけでなく、ナオライの創業に参画した1人でもあります

浄酎は、日本酒を浄溜してつくられるお酒です。つまり、このお酒の原料は「日本酒」そのものです。

浄酎(ジョウチュウ)
https://www.naorai.co/

浄酎の製法である「低温浄溜(40度以下の超低温での蒸留)」は、ナオライが特許を取得した独自の製法です。「低温浄溜」は、熱を加えずに浄溜するため、日本酒本来の香りをしっかり残したまま、繊細な風味をそのまま凝縮し、これまでにない味わいを実現する技術です。

日本酒は、一般的に時間が経つほど劣化するのが弱点です。

しかし「浄酎」は「時が経つほどに深まる熟成」が大きな魅力。ワインやウイスキー、ブランデーのように熟成させることでさらに深みが増します。飲むたびに感じる味わいの奥行きや香りの変化は、ほかのお酒にはない特別な体験です。

樽でゆっくり時間をかけて、何年も楽しめるという新たな価値が加わった「浄酎」は、日本酒や焼酎とも一線を画す「第三の和酒」と言えるでしょう。

三宅さん「酒蔵がつくる純米酒や純米吟醸酒を、私たちが仕入れて『浄酎』をつくる。そして『浄酎』を売っていく。このアップサイクルモデルによって、酒蔵とともに私たちの持続的なビジネスが成立すると考えています」

つまり「浄酎」をつくればつくるほど、そして、売れれば売れるほど、衰退していく日本の酒蔵に持続可能性のある経済価値を生み出すことができると考えられます。

三宅さん「大胆なことをいえば『日本中の酒蔵の在庫となるようなお酒が全部価値に変わるんじゃないか』と思っています」

「低温浄溜」によって造られる「浄酎」は、お米があるところ、そして酒蔵があるところであれば、全国各地どこででもつくることができるお酒ということです。

さらに、各地の地を原料としているため、同じ「浄酎」であっても味わいや香りが異なる「浄酎」ができあがる。私たちはさまざまなバリエーションの「浄酎」を楽しむことができます。

三宅さんの言う「酒蔵の在庫が全部価値になる」というのは、「浄酎というプラットフォーム」から新しい価値が生まれると言うことを意味しています。この点がまさにナオライのソーシャルビジネスとして評価されるところであり、三宅さんのユニークな発想です。

さらに、三宅さんの視線は日本国内に留まりません。

三宅さん:「日本酒の海外販路開拓は劣化がネックでした。でも『浄酎』なら常温でも流通できますし、時間を置けば置くほど価値が高まる」

全国各地の「浄酎」が生まれ、それを海外に流通させる。「浄酎モデル」は、地球規模での戦略、新たな需要の創出、そして、日本酒文化のゲームチェンジャーとなる可能性を大きく秘めていると言えるでしょう。

「浄酎」モデルを全国に展開!各地の企業が続々と支援

三宅さんは、本社のある広島に「神石(じんせき)浄溜所」(広島県神石高原町)をつくりました。地元の酒蔵のつくる日本酒を原料としてつくられる「浄酎」は「JOCHU JINSZEKI」として販売されています。

神石浄留所(広島県)の商品はこちら

神石浄溜所(広島県)

高度500mに位置する広島県神石高原町にあるこの浄溜所は、かつて日本酒を醸造していた旧田中酒造をリノベーションした物件であり、広島の樽オーナーの熟成倉庫としても運用されています

すでに、三宅さんは各地域の酒蔵や企業、団体と連携し、その土地の「浄酎」を生産することに着手しています。

2025年には、石川県の能登に「NOTONaorai 能登浄溜所」を設立。そして、2026年夏には長野県の「善光寺」付近に地元のパートナー企業と開設を予定しています。すでにこの動きは全国各地で注目されており、各地での展開も構想しているそうです。

能登浄溜所(石川県)

能登浄溜所:「のとbeyond復興ファンド」との連携事業。能登半島の 鳥屋酒造の日本酒を浄溜。中能登町の神社や小学校跡地など町と連携。スペインバスク地域のような美食倶楽部も構想している

NOTO Naorai株式会社、4/12(土)『能登浄溜所』開所式を開催~日本の酒文化の継承と地方創生を担う生産拠点~(PR TIMES)

能登浄溜所でつくられる「浄酎」は「JOCHU NOTO」として販売しています。

能登浄溜所(石川県)の商品はこちら

善光寺門前浄溜所(仮称)(長野県)

善光寺門前浄溜所(仮称):NAGANONaorai株式会社はナオライとエリモ社との共同事業。善光寺の参道を活用した善光寺付近の町の周遊の拠点としての役割も構想。軽井沢や白馬への展開も視野に入れている

長野から未来へ。新しい和酒『浄酎 -JOCHU-』で酒蔵再生を目指す「ナオライ」、NAGANO Naoraiが出資を受け事業加速(PR TIMES)

全国各地に展開できる「浄酎」モデルは、酒蔵のビジネスを継続的に支えるだけでなく、その地域に雇用を生み出すこともできます。浄溜所は約5,000万円〜1億2,000万円の初期投資で開設でき、各浄溜所の運営には4人程度のスタッフが必要となります。

三宅さん:「能登浄溜所は北國銀行さんが展開する『のとbeyond復興ファンド』様のご支援があって実現しました。また、新潟では地元のメディアや地元の企業様と構想を続けており、『浄酎』モデルは、多くの企業や団体から大きな関心をいただいています」

いずれは47都道府県に「浄酎」の浄留所をつくり、その地域ごとの米、日本酒から造られた味わいの異なる「浄酎」が生まれていくのです。これによって三宅さんの構想「日本中の酒蔵が在庫となる」が現実味を帯びてくるのです。

地元にこだわり、地元の良さを伝えていくのが一般的な酒造りだとすると、ナオライは「浄酎」というプラットフォームを活用し、日本全国各地の魅力を発信していくという点が非常にユニークなビジネスモデルであると考えられるのです。

おいしいお酒があるところには、良い文化がある。

お酒は単なる飲み物ではなく、その土地の風土、歴史、そして人々の営み(文化)を映し出す鏡ともいわれます。

三宅さんは、地元広島だけでなく、日本全国の各地域の文化を「浄酎」を通じて世界に発信していくという使命を担おうとしています。

スペインやアメリカからも・・・

「日本国内の酒蔵を救いたい」という想いからスタートしたナオライの浄酎プロジェクトですが、三宅さんの元には、スペイン、イタリア、そしてアメリカからも問い合わせが寄せられており、海外にも「浄酎」の浄溜所をつくるという構想を進めています。

三宅さん:「東京建物様が展開する一般社団法人TOKYO FOOD INSTITUTE、スペイン バスク地域のBasque Culinary CenterのプロジェクトであるGastronomy Open Ecosystem、CIC Instituteが実施するアクセラレーションプログラムに参加でき、世界一の食の都サンセバスチャンに、スペインの米をSAKEにし、JOCHUとUMAMINOを生産。世界一の食の大学BCC(バスクカリナリーセンター)とも提携し味覚の分析や事業構想を進めています」

スペイン・サンセバスチャンにある世界が注目する食の専門大学Basque Culinary Center との共同研究の様子

三宅さんはすでにたくさんのビッグピクチャーを描いています。「浄酎」プラットフォームが海外に展開する未来に、もはや私たちもワクワクせずにはいられません。

丸和育志会との連携もスタート

丸和育志会の第8回丸和ソーシャルビジネス賞(2021年)を受賞した柳生好彦さんは、香川県小豆島のオリーブを活かした化粧品の製造をはじめ、オリーブを通じて、人々を心身両面から健康にする事業に取り組んでいます。

丸和育志会では、柳生さんと三宅さんを繋ぐと面白くなるのではないかと考え、ELPASO会を通じて2人を引き合わせたところ、ユニークな交流が始まり、柳生さんが会長を務める「小豆島ヘルシーランド株式会社」との連携で「小豆島浄溜所」の建設も構想中です。

小豆島ヘルシーランド株式会社
https://shl-olive.co.jp/

さらに、丸和育志会では、ナオライの「浄酎」モデルやブランドの価値を高めるサポートを継続していく予定です。

「浄酎」の製造工程から「豊富なアミノ酸」が生まれる?

三宅さんの活動や「浄酎」の物語はここで終わりません。

この「浄酎」は、さらに新しい価値を生み出す可能性を秘めていたのです。

「浄酎」を造る時に残った液体。その液体には、豊富なアミノ酸が含まれていることがわかったのです。

三宅さん:「この液体にうま味たっぷりのアミノ酸が豊富に含まれているんです。この副産物を東京で活躍する料理人の比嘉康洋さんや立命館大学生命科学部との共同研究により『発酵うま味調味料』を開発しています。鍋料理にも使えますし、お刺身につけて食べてもおいしいです。発酵食品なので腸活にもいい。ヘルシーで美味しい調味料です」

この「発酵うま味調味料」も「浄酎」と同じく、その土地によって味や風味が異なるといいますし、その土地の塩と合わせることで、地域ごとにブランドのバリエーションが広がっていくのです。

人類の営み、そして文化を切り拓く

「日本の酒蔵を救いたい」という思いが「浄酎」を生み出し、雇用とビジネスを創出し、それぞれの地域の文化を発信でき、さらに「発酵うま味調味料」で人々の食と健康を育む。

「志」という「神への捧げ物」から、さまざまな「恵」を生み出し、みんなで分け合う。しかも地球規模で展開できるビジネスが見えてきました。

「浄酎モデル」は利益を生み、同時にさまざまな社会課題を解決するビジネスモデル。これはまさに丸和育志会が行動指針として掲げる「志と富のバランス」を体現する事業であり、さらに未知なる可能性を期待できるソーシャルビジネスと言えるでしょう。

要点をつまんで、といいつつ、非常に長い記事となりました。申し訳ないです。

申し訳ないので、最後まで読んでいただいた方に、突然ですが最後に丸和育志会の橋本理事長から教えてもらった「誰かに話したくなるトリビア」をご紹介してこの記事を締めたいと思います。

「シンポジウム(symposium)という言葉がある。シンポジウムとは特定のテーマについて複数の専門家が一般聴衆の前で議論し意見交換を行う公開討論会のことを指すが、元々は古代ギリシャ語で「一緒に酒をのむ」と言う「συμπίνειν (sympinein)」から派生した言葉。つまり、酒を飲むという行為は、人類の営みにおいて欠かせないものだと思うなあ」

三宅さんは、お酒を造るだけでなく、人類の営み、そして文化を切り拓いているのかもしれません。


三宅 紘一郎さん

1983年生まれ広島県呉市出身。
親族に酒蔵関係者が多く、幼いころから日本酒に興味を持ち、大学時代は日本酒を中国で広げたいと上海へ留学。2015年東京でソーシャルスタートアップアクセラレータープログラムSUSANOOと出会いナオライを創業。神石高原町に最初の浄酎を生産するための浄溜所を設立。浄酎-JOCHU-をリリース「移動距離は創造性に比例する」という言葉を胸に世界と日本の地域をかけめぐり「人、自然、微生物、すべての命が尊重され調和されている醸された世の中」を日本酒を通じて実現するために日々奮闘中。 2024年NOTONaorai能登浄溜所を設立。
2025年、丸和育志会第12回丸和ソーシャルビジネス賞を受賞。

ナオライ株式会社
https://www.naorai.co/

ナオライ・オンラインストア
浄酎を購入できます
https://ec.naorai.co/

醸し人ラジオ from ナオライ
ナオライの提供するポッドキャスト番組。文化を大切にする三宅さんやスタッフの皆さんの思い、最新のホットな話題も聞くことができます
https://open.spotify.com/show/5My6t83LMm3g7qeX6HxnhQ

日本酒を低温蒸留し全く新しいお酒を生み出した ナオライ 三宅紘一郎【ひろしま未来区 #05】
広島ホームテレビで2024年1月30日に放送された三宅さんの映像です。「浄酎」の製造工程の様子など詳しく取材されていますし、三宅さんの人柄や雰囲気も伝わってきます



ページトップ