コラム
【ELPASO会員コラム43-1】VUCAの時代にクリエイターの「想像力」が未来を予測する?
2026年5月22日
事務局
2026.5.22
丸和育志会理事 坂根秀和
荒唐無稽なドラマが現実のアメリカを予言?
Amazonプライムビデオで配信している「The Boys」というドラマがあります。2019年から始まったAmazon制作のドラマシリーズで、この2026年4月に最終シーズンであるシリーズ5が配信開始、このコラムが公開される頃には最終回が配信されていることでしょう。
このドラマは目を背けたくなるような過激な暴力描写、下品な言葉づかい、悪趣味な表現がてんこ盛りですので視聴はお勧めしません。ストーリーの設定も荒唐無稽でグロテスク、正義の味方であるはずのスーパーヒーローたちが揃いも揃ってクズ、そのクズたちが資本主義と民主主義の仕組みを利用してアメリカを牛耳っていくというひどい物語です。絶対に観ちゃダメです。
圧倒的な能力を持ったスーパーヒーロー「ホームランダー」(スーパーマンみたいな格好をしているクズな中年男性)が、シーズン5ではいよいよ大統領よりも強い権限を持ってしまいました。
ホームランダーを批判する人は容赦なく強制連行されます。なるほど、これは現実のICE(アメリカ合衆国移民・関税執行局)による不法移民に対する過激な取締りや家宅捜索をヒントにしたのかと思ったのですが、実は、このドラマのシーンは、第2次トランプ政権の始まる前に脚本が書かれていました。つまり未来を「予言」していたのです。
さらにシーズン5ではホームランダーが「私は神だ」と言い出し、自身を神とする「アメリカ民主主義教会」を展開していきますが、トランプ大統領もつい最近SNSで「自身がイエス・キリストになったような画像」を公開しました。ドラマがどんどん現実になっていきました。びっくりしました。
SF小説がNASAの研究開発のヒントに?
「クリエイターの想像力が未来を予言する」というのが、この「The Boys」の面白いところではありますが(いささか現実の方がどうかしていますが)、こういう事例は他にもあります。
2026年3月の第98回アカデミー賞で最優秀作品賞、監督賞など6部門を受賞した「ワン・バトル・アフター・アナザー」(ポール・トーマス・アンダーソン監督)においても、現在のアメリカの移民政策を予言しているようなシーンが話題となりました。これも現実の風刺ではなくあくまでフィクションとして数年前に撮影されたシーンです。さすが”天才”ポール・トーマス・アンダーソン。(2006年に公開されたマイク・ジャッジ監督の「26世紀青年(原題:Idiocracy)」というコメディ映画もある意味現在のアメリカを予言しているかのように思いますが・・・それは言い過ぎかも知れません)
また、クリエイターの想像力が現実の世界を変えるという事例もたくさんあります。たとえばSF小説がヒントとなった技術が実際の宇宙開発に活かされたこともあるといわれています。
ジュール・ベルヌが1865年に発表した小説「月世界旅行」がなかったらロケットの開発は何十年も遅れていただろうといわれています。「2001年宇宙の旅」の原作者アーサー・C・クラークは「通信衛星」構想を論文で発表し、「宇宙エレベーター」を小説に登場させています。アンディ・ウィアーの「火星の人」に登場する水や酸素の生成、ジャガイモ栽培の描写は、NASAの火星移住技術のシミュレーションとして話題となりました。
VUCAの時代の「資本」は想像力?
これらの例のように人間の想像力(もしくは妄想)は、未来を切り開く可能性に満ちているのではないでしょうか。VUCAの時代と言いますが、そのVUCAの時代を予言しているドラマや映画もあるわけですから、やはり人間の想像力はたいしたものだと思います。
私たちも、なんとか想像力を鍛え、磨き、できるだけ具体的なビジョンをイメージする。そのイメージを強く持つ。難しくてもまずは妄想することは、戦略として非常に有益に思えるような気がします。想像力は元手もいらずですので、これはぜひトライする価値はあるのではないでしょうか。
そんなことやって意味があるのかよ、現実を見ろよ、という声が聞こえてきそうです。
さらに、それは限られた天才や有能なクリエイターだからできるんだよ、という声も。
であれば、皆さんの近くにいる天才や有能なクリエイターと知り合いになって未来について相談するのも良いと思います。
最後に一言。
本コラムではクリエイターたちの素晴らしい想像力についてご紹介しましたが、一方でまだ当たっていない「予言」的な映画もあります。
2024年公開の「シビル・ウォー アメリカ最後の日」や2025年にNetflixで作られた映画「ハウス・オブ・ダイナマイト」のような未来予測は絶対に当たってほしくない、と強く願います。
これらのイマジネーションが「予言」にならず、現実の「抑止力」となりますように。