【会員コラム27-1】「メディアをビジネス視点で検証すると・・・」① 新聞に起死回生はあるか?

「メディアをビジネス視点で検証すると・・・」 ① 新聞に起死回生はあるか?

メディア業界にショッキングなニュースが飛び込んできました。
これまで世界一を誇った読売新聞が、有料購読者数でニューヨークタイムズ(NYT)に抜かれたのです。
具体的には今年3月時点で、読売687万をNYTが693万と上回ったのです。
DX(Digital Transformation)が盛んに言われる今、これは単に部数問題にとどまらず、ビジネス的にも本質を象徴していると考えます。

ご覧の通り、日本の新聞の発行部数は下落の一途です。
この20年で一般紙は3分の1、スポーツ紙は6割強が消えました。インターネットに取って代わられたのです。
不要不急の情報は、ネットで無料で得られます。わざわざお金を支払う人は多くありません。
しかも新聞の発行は1日2回、情報が遅いのです。紙で読みたい高齢者中心に購読されていますが、不便で高い新聞を読む若者は稀です。

今や情報は、オンデマンド・ピンポイント・自分ゴトの時代です。
必要な時に、必要な部分を消費でき、しかも自分の関心事にヒットすることが勝負の分かれ目です。
もちろん各紙もデジタル版の発行に挑戦してきました。
ところが必要度の高い経済情報を提供する日経新聞以外は、朝毎読は契約件数が伸びません。
トップを行く日経も、80万部で止まりました。4000円という料金がネックだったのかも知れません。

ではなぜNYTはデジタル版が500万を突破したのでしょうか。
日経の約半額と安いこともありますが、米国の動向を世界で必要とする人が少なくなかった点が大きいでしょう。
ところが日本の情報は、世界から相手にされません。明暗はここで大きく分かれました。

では起死回生の余地はないのでしょうか。私はあると確信します。
日本のメディアは内向きで、国内の情報ばかりです。
しかも発表ジャーナリズムという言葉がありますが、行政や企業が公表する情報の伝達がメインです。
これでは別のサイトなどで無料で入手できます。
“自分ゴト”ニーズを満たす多様で深い情報の提供をする道です。
国内市場を前提にすれば、こうした展開まで踏み込めば、契約件数増は期待できるでしょう。

次は世界です。
日本の情報ばかりでなく、極東そしてアジア地域の情報発信はどうでしょうか。
普遍的な価値を共有する国のメディアとして、そんな切り口で中国などの状況を発信すれば、欧米のニーズは期待できます。
そんなリスクとコストをとってこなかっただけと感じます。

紙を宅配するというアナログシステムに未来はありません。
デジタルの世界では、グローバルと個人のニーズに応えられるか否かが決め手です。
前時代のやり方に拘泥して死を待つのか、リスクとコストをとって新たな道に挑戦するのか。
これは新聞に限らず、多くのビジネスに共通するテーマではないでしょうか。

2022.5.25

次世代メディア研究所所長
鈴木祐司