【ELPASO会員コラム32-2】「副業起業」という選択肢②

2023.09.22
福知山公立大学 杉岡秀紀

今回は、勤務しながら副業として起業する「副業起業」について取り上げます。

まず副業と起業の関係については、日本経済団体連合会(以下、経団連)が2022年に興味深いレポート『スタートアップ躍進ビジョン−10X10Xを目指して−』を発表しています。そのレポートによれば、これから起業やスタートアップ企業を増やすためには「人材の流動化」が必要であると提言されています。
その中でもここでは「副業・兼業の推進、同業転職・起業の過度な制限の防止」が独立項目として記述されていることに注目したいと思います(図表1)。というのも、経済団体としてもいきなり起業を推奨するだけではなく、副業や兼業などでワンクッション置くことが有効であると認識していると考えられるからです。
さらに、このレポートでは、かつて自社で働いていた人を再雇用する「カムバック・アルムナイ採用」や優秀な人材を獲得することを目的に企業買収する「アクハイヤー採用」、「出向起業」など、人材の流動化を加速させるためのより踏み込んだ提言も見られます。これら全てが実現すれば、日本の起業文化やスタートアップ文化は相当変わると思われます。

図表1 『スタートアップ躍進ビジョン−10X10Xを目指して−』

(出所)経団連(2022)

それでは、「副業起業」の実態はどうなっているのでしょうか。
2016年にインターネットを用いて大規模な「起業と起業意識に関する調査」1) を行った村上義昭(2017)によれば、わが国の起業意識は、起業無関心層が全体の60.6%、起業家は1.5%、起業関心層が14.3%であることが分かっています(図表2)。すなわち、起業に関心を持つ者は、起業家1.5%と起業関心層14.3%を足した15%程度いることが確認できます。

図表2 起業意識の分布

(出所)村上(2017)

さらに、この論文では「副業起業」した者を細分化しています。具体的には、勤務を辞めてから起業する人を専業起業者(①)とした上で、副業起業者を②副業継続者(勤務しながら起業した後も勤務している者)と③専業移行者(勤務しながら起業した後、勤務を辞めて事業を専業としている者)に分類し、内訳は①が72.5%、②が14.9%、③が12.6%、という結果でした(図表3)。つまり、労働者全体から見れば起業家そのものは1.5%ほどの人数しかいないものの、その内訳を見ると、②と③の合計である27.5%もの人が副業を経て起業した人材であることが分かっているのです2) 。この数字を多いと見るか、少ないと見るかは議論が分かれそうですが、「本格的な起業のための助走期間」を一定必要とする人がいることは間違いないでしょう。

図表3 起業パターンの構成比

(出所)村上(2017)

ちなみに、「副業起業」と近い概念として、「居ながらベンチャー」(齋藤ほか 2003)、「ローカルプレナー」(長沼 2013)といった言葉もありますが、含意は近いと思われます。また、海外においては、part-time entrepreneurもしくはhybrid entrepreneurと呼ばれているようです。part-timeという言葉からは、「本業の空き時間での副業(起業)」あるいは「副収入としての副業(起業)」というニュアンスしか感じられませんが、hybridという言葉からは、「本業と副業を掛け合わせた複業(起業)」といったニュアンスが強調されている感じがします。

岸田首相は2022年の年頭の記者会見にて「日本の第二創業期を実現するため、2022年をスタートアップ創出元年にする」という趣旨の宣言をしました。そして、同年6月には「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」を取りまとめ、同年8月には「スタートアップ担当大臣」を新設しました。しかし、首相による宣言や計画だけで起業家やスタートアップ企業が激増するとは思えません。その理由は、日本においては労働者の約9割(87%)がサラリーマンであること、また、そもそも再チャレンジ文化が乏しいからです。このことは、GAFA3) のような、新たなビジネスモデルで世界を席巻するような企業(ユニコーン企業と呼ばれることが多い)がわが国からここ数十年生まれていないことからも明らかでしょう。
したがって、同調圧力が強い日本において起業家やスタートアップ企業を増やすためには、まずはハードルを一つ下げて「副業起業」という選択を用意する、というのは日本の文化に比較的合った方策であると言えるのではないでしょうか。

次回(最終回)は、「副業起業」の実際の事例をいくつか紹介してみたいと思います。

(参考文献)
・一般社団法人日本経済団体連合会(2022)『スタートアップ躍進ビジョン−10X10Xを目指して−』(https://www.keidanren.or.jp/policy/2022/024.html) (2023年9月15日アクセス)
・斎藤孝・堀紘一(2003)「「居ながらベンチャー」のすすめ “副業奨励”で日本社会の活性化を」『Voice』3月号、136〜145頁
・杉岡秀紀(2023)「複業を活用したスタートアップの可能性 ―複業起業と地域特性を生かしたスタートアップ・エコシステムに注目して―」『東京都立産業技術大学院大学 スタートアップ・アクセラレーター研究所 報告論文集』3号、東京都立産業技術大学院大学 スタートアップ・アクセラレーター研究所、46〜64頁
・杉岡秀紀(2023)「大学の学びと地域社会の働きを接続する社会人向け起業人材育成―「NEXT産業創造プログラム」を事例として ―」『社会教育』8月号、日本青年館、19〜26頁
・長沼博之(2013)『ワーク・デザイン これからの働き方の設計図』阪急コミュニケーションズ
・村上義昭(2017)「「副業起業」は失敗のリスクを小さくする」『日本政策投資金融公庫 調査月報』4月号、No.103、日本政策金融公庫総合研究所、4-15頁

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1)対象は全国の18歳から69歳までの男女31万7,861人で回収数は、事前調査2万4,993人、詳細調査は1,436人。
2)副業起業の事業内容は、①クリエイター系の事業(イラストレーター、ライター、ウェブデザイナーなど)、②専門性の高い事業(設計、システムエンジニア、経営コンサルタントなど)、③趣味や特技、資格などを活用した事業(語学講師、ピアノ教室、整体師、アクセサリーの修理など)が多い。
3)Google(現Alphabet)、Apple、Facebook(現Meta)、Amazon。