【ELPASO会員コラム32-1】「副業起業」という選択肢①

2023.08.18
福知山公立大学 杉岡秀紀

「副業起業」という言葉をご存知でしょうか。
周知の通り、副業という言葉は本業があることを前提にした言葉で「本業以外の従たる仕事や業務に従事すること」を意味します。そして、これまでの副業は「副収入」が主たる目的であることがほとんどでした。
一方、近年、収入面よりも生き方や社会貢献性にこだわる副業が注目を集めています。こうした生き方や社会貢献性にこだわる副業について、経営学者のP・F・ドラッカーは、著書『明日を支配するもの』(ダイヤモンド社、1999)の中で「パラレルキャリア」という言葉を紹介していました。その意味は「仕事以外の仕事を本業外で有し、社会活動等に参加することにより、本業とそれ以外のキャリアを両立させる生き方」というものです。これを直訳すれば「複業」になるでしょうか。
いずれにせよ、小稿で取り上げるテーマも、副収入としてというよりはむしろ「パラレルキャリアとして起業をする人」すなわち「副業(複業)起業」に焦点を当て、順に論じていきたいと思います。

さて、その副業ですが、まずは統計的動向から確認したいと思います。結論から言えば、副業は近年、右肩あがりで増加傾向にあります。総務省が今年度発表した「令和4年度就業構造基本調査」によれば、有業者6,706万人のうち、副業をしている人口は305万人おり、5年前の調査に比べて約60万人増えたことが分かっています。
経団連が2022年に会員企業1,509社を対象に実施した「副業・兼業に関するアンケート調査結果」によれば、副業を認めているという企業は53.1%に上り、2020年の38.2%に比べ、15ポイント以上増えたことも分かっています。「正社員が5000人以上の企業」に限れば、その割合は66.7%とさらに増加します(図表1)。

図表1 副業を認めている企業の推移

(出所)経団連(2022)

副業が進んだ背景は大きく3つ考えられます。1つは政府の「働き方改革」です。具体的には2017年に策定された「働き方改革実行計画」を受け、2018年に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が公表されました(2020年に改訂)。このガイドラインの登場により、国のモデル就業規則が改訂され、副業や兼業の取り扱いが原則禁止から原則容認へと大きく変わり、大企業を中心に副業を容認する企業が増加しました。
2つは「人生100年時代」の到来です。厚生労働省(2021)によると、わが国の男性の平均寿命は81.47歳、女性の平均寿命は87.57歳になりました。統計を取り始めた1947年の男性の平均寿命は50.06歳、女性の平均寿命は53.96歳でしたので、この約70年で男女とも30歳以上平均寿命が伸びたことになります。このような長寿時代が到来すると、当然のことながら、定年が延長されたり、働く年数が伸びたりするだけでなく、教育や転職の機会も増えるわけで、その準備やパラレルキャリアの一環として副業が注目されるに至ったわけです。
ファイナンシャルプランナーの内宮慶之(2019)は、人生100年時代では、教育と仕事の関係は「教育→仕事→老後」といった典型的な3ステージのライフプランでは生き抜けず、「教育→仕事→教育→仕事(ダブルワーク)→教育→仕事(フリーランス)→老後」という新たなライフプランに移行する必要性を説いています(図表2)。皆さんの周りにもこのような新しい選択する人が増えているのではないでしょうか。

図表2 人生100年時代のライフステージ

(出所)内宮慶之(2019)

3つは2019年末から世界で猛威をふるった新型コロナウィルス感染症(以下、コロナ)です。このコロナの到来により、仕事におけるコミュニケーション方法が大きく変わり、とりわけ出社を前提としないオンラインビデオツール(zoomやteams、Webex、Meets等)を活用したリモートワークやそのリモートワークと長期休暇(バケーション)を組み合わせるワーケーションが当たり前となりました。こうした新しいコミュニケーションツールの普及により、どこにいても仕事ができる人が増え、それが副業を後押ししました。

ところで、最近「週休3日制」が注目を集めていますが、昨年イギリスでこの大実験が行われたのはご存知でしょうか(autonomy,2023)。具体的には、2022年6月から12月にかけ半年間、61の企業とNPO、約2,900人の従業員が「週休3日制(週4日勤務になるので、4DAY WEEKとも呼ばれる)」の社会実験をしました(この実験では給料の100%維持を条件)。その結果、満足度は10点満点中平均8.3点、96%の参加者が週5回よりも週4回勤務を希望(図表3)、労働時間を短縮しても業績は落ちず、実験終了後も92%(56社)が週休3日制を継続、との結果が得られたそうです。もしこの制度が日本でも広がれば、副業人口も右肩上がりで増加すると思われます。

図表3 週休4日勤務の希望者

(出所)Autonomy(2023)

いずれにしても、こうした背景により、副業への注目が高まり、徐々にですが副業に取り組む方も増えてきました。
次回は、副業の一環で起業やスタートアップに取り組む「副業起業」そのものについて取り上げていこうと思います。

(参考文献)
・Autonomy, THE RESULTS ARE IN:THE UK’S FOUR-DAY WEEK PILOT, autonomy.work,2023
https://autonomy.work/wp-content/uploads/2023/02/The-results-are-in-The-UKs-four-day-week-pilot.pdf)(2023年8月18日閲覧)
・一般社団法人日本経済団体連合会(2022)『副業・兼業に関するアンケート調査結果』
https://www.keidanren.or.jp/policy/2022/090.pdf)(2023年8月18日閲覧)
・内宮慶之(2019)「人生100年時代では、教育⇨仕事⇨老後といった典型的な3ステージのライフプランではどうやら生き抜いていけなくなる!?」『ファイナンシャルワールド』(https://financial-field.com/household/entry-29795) (2023年8月18日閲覧)
・厚生労働省(2021)『令和3年簡易生命表の概況』
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life21/index.html)(2023年8月18日閲覧)
・杉岡秀紀(2023)「複業を活用したスタートアップの可能性 ―複業起業と地域特性を生かしたスタートアップ・エコシステムに注目して―」『東京都立産業技術大学院大学 スタートアップ・アクセラレーター研究所 報告論文集』3号、東京都立産業技術大学院大学 スタートアップ・アクセラレーター研究所、46〜64頁。
・杉岡秀紀(2023)「大学の学びと地域社会の働きを接続する社会人向け起業人材育成
―「NEXT産業創造プログラム」を事例として ―」『社会教育』8月号、日本青年館、19〜26頁。
・総務省統計局(2018)『就業構造基本調査』(https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2017/pdf/kgaiyou.pdf)(2023年8月18日閲覧)
・P・F・ドラッカー(1999)『明日を支配するもの』ダイヤモンド社。
・やつづかえり「英国「週休3日制」大規模実験はどのように行われたのか」
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/09c8a7de92bbc22b76b45a835df1ba979842604a
(2023年8月18日閲覧)