【ELPASO会員コラム30-3】大問題の少子化、国任せでなく我々も行動を

2023.4.21
本荘事務所代表
本荘 修二
 
前回・前々回のコラムで、日本国政府のスタートアップ施策に絡んで問題提起しましたが、今回は異次元と打ち出している「少子化」について。

ずいぶん前から少子化が言われていますが、有効な施策もなく、放置されていると思っている読者もいるかもしれません。
1992年に国民生活白書で、「少子社会の到来、その影響と対応」と題して、日本では1970年代半ばから続く少子化現象と少子社会の課題が指摘されました。
そして、2004年、2010年、そして2015年にそれぞれ「少子化対策大綱」を閣議決定し、2020年に「少子化社会対策大綱」を策定しました。
つまり、問題として認識をし、対策に取り組んだが、結果として悪化の一途なのです。

岸田首相は2月15日の国会で「子育て関連予算の倍増」と答弁しました。
単純にGDP比で考えると、主要国の平均以下から世界一を目指すことになります(その後、答弁は事実上撤回)。
小倉将信こども政策担当相が3月31日に発表した「こども・子育て政策の強化について(試案)~次元の異なる少子化対策の実現に向けて~」には例えば、
・出産一時金の引上げ(42万円から50万円)
・児童扶養手当の対象に高校生を加え、所得制限は撤廃
・育休中の給付率を現行の67%(手取りで8割に相当)から8割程度(手取りで10割)に引上げ
・低所得世帯向けの給付型奨学金の対象を拡大
などの具体策があります。
他の施策にも言及されていますが、全般的にお金で解決しようという印象を受けます(経済的な問題は大きく、賢い予算の使い方は大切ですが、試案には相当な批判もみられますし、例えば家族及び子育て支援がGDP比で日本の約2倍のフィンランドの合計特殊出生率は日本と同レベル)。
また、従来の考え方の延長上に見え、異次元とは感じられません。

少子化は、いくつもの問題が複雑・多層に絡み合っており、各要素の相互・因果関係などを的確に把握し、全体感のある理解をすることは容易ではありません。さらに、現場感が欠けていると、本質的な施策を打ち出すことは難しいでしょう。

子育て

多くの人が、子どもを持つ気がしない理由として、お金だけでなく、育児がとてもタイヘンと感じていることをあげます。
これは若い人が甘えているというわけでなく、構造的な問題があります。
生物学的に、ヒトはママひとりで子育てするようにできていません。生まれてスグ大声でなくのはヒトくらいです。つまり、皆で守り育てる種なのです。
ところが、日本社会は核家族化し、孤独なママの子育てが常態化しました。

こうした歪みは、日本の産後は「異常事態」と警鐘が鳴らされる状況を生んでいます。
2年の間に、出産後1年未満に死亡した女性の死因のトップは自殺で92人、なかでも35歳以上や初産の女性にその割合が高いのです(国立成育医療研究センター調査)。
この結果を専門家は、産後うつなどが関係しているとみています。

しかも、1人目の子どもを出産した女性の62.9%、2人目の子どもを出産した女性の57.7%が、仕事を続けています(2020年度)。
つまり、半分以上のママは働いており、パパ=大黒柱は過去のものとなりました。

しかし、ナイーブな日本社会は変われず、ママに負担を強いる空気でいっぱいです。
パパ・ママの親や周囲は昔のまま。パパも大して変わらず。企業もなかなか変わろうとせず、日本は男性育休の制度は世界一とも言われますが実行はわずか、他の先進国より女性のキャリアにだいぶ冷たいのが実情です。

未婚・晩婚

韓国は日本を上回る少子化に喘いでいます。政府は既婚夫婦の育児支援に注力しましたが、未婚率の増加に対応できず、男女の格差については社会も企業も保守的で、恋愛・結婚・出産をあきらめる3放世代という言葉が広まったほどです。
これを見ると、日本も韓国を追うのでは、と思う方も少なくないでしょう。日本では未婚・晩婚化が進んでいますが、有効な対策はまだ見られません。

少子化対策の先進例として、しばしば欧州の国が注目されますが、婚外子の比率がとても高く(仏は半分以上)、婚外子がごくわずか(2%)の日本とは社会として異なります。
日本では、草食化とも言われる男女交際の不活発化、そして親と同居する未婚者増加などの問題もあります。

日本でも婚外子を受け入れ・歓迎するか、未婚・晩婚化に本質的な策を講じるか。いずれにせよ、難儀な道です。
明るい未来を目指し新たな日本社会を創るべく、脱皮と新生を図る必要があります。

我々も行動を

日本の事情にも詳しい韓国国立放送通信大の鄭賢淑(チョンヒョンスク)教授は、日韓とも少子化対策が国や自治体任せになっているとして、「企業や市民団体など多様な主体が女性や若者を応援し、社会の雰囲気を変えないといけない」と語っています(東京新聞、2023年2月22日)。

もちろん国の施策への建設的な批判や提案を発信することは重要ですが、我々も自ら行動を起こすことが大切です。
クリエイティブかつ知恵を凝らした様々な取り組みが望まれますが、すぐ思いつく例を紹介します。

伊藤忠商事のような大企業から中小企業まで、働き方を改革し社員家族の出生を増やした先例が現れています。
ワーク・ライフバランスは働き方改革コンサルティングを提供し、小室淑恵社長は政府への働きかけを続けています。
みらい子育て全国ネットワークやファーザ・リングジャパンは、子育てママ・パパの支援や政策提言をしています。

スタートアップも増えつつあります。ファーストアセントなどベビーテックの分野が起こり、グレイスグループなど生殖治療も注目されています。
丸和ソーシャルビジネス賞受賞者も、
・キッズウィークエンド、イースマイリー:子どもの教育を通して子育てをサポート
・NPO法人ピッコラーレ:にんしんSOS相談や相談員育成
などが活躍しています。

なお、これらの活動は単独だけでは力を発揮しにくい面があります。
例えば、卵子提供年齢が遅いなどの理由により、日本の卵子凍結の妊娠成功率は米国の1/3です。
啓蒙・教育や他とつながったエコシステムづくりが求められます。また、未来志向で研究や発信をすることも意義があるでしょう。

親になるためのスクール

筆者は「親になるためのスクール」というテーマを持っています。親になる前に、そのイメージも自信もぼんやりとしている方が多いのではないでしょうか。
筆者は4年半前に父親になり子育て・家庭づくりに懸命ですが、戸惑うことばかりです。
事前に少しでも準備ができれば大きな違いになると思います。

また、ある小学生・幼児向け教室の社長は、子どもの問題は親・家庭に原因があることがほとんど、と指摘します。
小生も、様々な家庭の例をみて、もっと幸せな家庭にできるのでは感じることもあります。学びが役に立つはずです。

ママ任せでなく、家族で育み合って、(日本が世界でも最低レベルの)自己肯定感の高い元気な子どもに育てをしたいものです。
社会の仕組みや情報に振り回されず、冷静かつ自信をもった子育てを目指しましょう。

単なる育児法を超え、パートナーとのリレーションとそのためのコミュニケーションやチームワーク、子どもとの関わり方、そしてつまるところ自分がどう生きるのかを、学び考えることが大切です。
男性の参加が肝要であり、企業の教育プログラムとしての価値もあります。
また、結婚を考える前、成人になる前に学ぶことは、人生を豊にするでしょう。
そして、相互に教え助け合う、学び続けるコミュニティを育みたいものです。

昨年、テスラやスペースXなどのCEOを務めるイーロン・マスク氏の「出生率が死亡率を超えることがない限り、日本はいずれ消滅するだろう」との指摘が話題になりました。
日本の総人口が前年より64万4000人という過去最大の減少となったことに反応したツイッターでの発言でした。
少子化を乗り越えねば、日本の未来はありません。
読者の皆さんのアイデアや行動を期待し、ご意見やご提案をお待ちします。