【会員コラム30-1】スタートアップ施策は、未来をつくるグローバル視点を

2023.2.24
本荘事務所代表
本荘 修二

2022年11月下旬に、日本国政府は「スタートアップ育成5か年計画」を策定し、スタートアップの創業数と投資額の両方を拡大させることを目標に据え、東京都は「Global Innovation with STARTUPS」を策定し、東京の新たなスタートアップ戦略を発表しました。
都はビジョンの三本柱の一つとしてグローバル x10を掲げ、東京発ユニコーン(時価総額千億円超の未上場企業)数5年で10倍を目指しています。
政府の計画について、経済産業省の吾郷進平・大臣官房スタートアップ創出推進政策統括調整官は、「最大のキーワードはグローバルだ。日本の起業家が世界市場を視野にビジネスを展開し、世界の人材や資金が日本のスタートアップに集まるようにしたい。」と語っています(2022年12月14日東京で開催のイベント「FUSE」にて、出所:STARTUP-DB)。

いずれも「グローバル」を大きく掲げていますが、日本発や東京発へのこだわり、あるいはいまだにAll Japan的な発想があると思われます。日本を中心に考える天動説的な旧式の発想から、地動説的なグローバル視点への転換が必要です。
それに、日本はスゴイというパラダイムから脱却していないようですが、金・人・市場など、日本のスタートアップ・エコシステムはすでにラガード(laggard=遅れる者)となってしまいました。

つまり、日本に優れたシーズ(技術/アイデア)やチーム(起業家/人才)があれば、海外に出て、日本より優れたエコシステムで成長に挑む方が、ポテンシャルの大きなスタートアップとなる可能性が高いでしょう。
例えば、すでにWeb3分野では毎週、シンガポールなど海外で日本の若者が起業しています。日本の税制はじめ法・制度などが起業に不適であり、また英語圏のコミュニティで活動する方が学び/情報収集や人のつながりでメリットが大きいためです。政府の「5か年計画」にWeb3に関する環境整備がうたわれていますが、それを待ってはいられません。

政府はユニコーン100社創出を目指していますが、スケールを追求するにはお金が必要です。政府の計画でも指摘されていますが、2021年ベンチャーキャピタル投資は、日本が2,300億円、1,400件、米国が36.2 兆円、17,100 件であり、総額は100倍以上、一件あたり投資額は日本1.6億円、米国21億円と10倍以上の計算となります。なお米国ベンチャーキャピタルの例ですが、筆者の古巣のGeneral Atlanticも、筆者が最近Forbes記事( https://forbesjapan.com/articles/detail/52274 )で紹介した(モデルナを共同創業・育成した)Flagship Pioneeringも、一社で一兆円を超えるお金を動かしています。これに互する投資環境を日本で期待するのは、政府の予算執行だけでは現実的ではありません。

鶏と卵の関係に似て、やれば好循環が生まれると考えるのは、楽観的過ぎます。例えば、ある日米でスタートアップ投資をしている方は、米国企業への投資の方がゲイン(利益)が得られ魅力的だと語ります。米国スタートアップの方が、M&A(企業売却)によるExitが期待できるだけでなく、IPO(株式上場)してから企業価値が上昇するからです。ユニコーンで止まらず、数千億円や数兆円の価値創造になるスタートアップが数多く生まれています。
また、海外マネーを日本に呼び込む障壁は数字だけなく、日本の法・裁判所がメインとなる株式会社には手を出したくないという米国投資家が大多数です。筆者がかつてアドバイザーだった500 Global(米国本社の投資会社・アクセラレーター、日本のPaidyなどに投資)は例外的で、一般には投資して欲しいなら米国で本社を登記せよという話になります。

したがって、ソニーやホンダのように日本で起業し世界に羽ばたく、という願いだけでなく、海外で起業、あるいは例えば日米で起業するが米国本社メインといったモデルを前提とするのが現実的でしょう。
それでは人材流出だと考えるのは早計です。例えば、日本に限界を感じてアジアで起業した平野未来氏は、日本に戻ってシナモンA Iというスタートアップで大活躍し、エコシステムにインパクトを与えています。野茂英雄選手が米メジャーに行くとき、日本球界もメディアもひどい扱いをしましたが、結局は日本の野球選手に新たな未来をつくる先駆けとなりました。国内抱え込みでは発展は限られます。ちなみに、スタートアップの初期に小さな額で大きな持ち分を得ようとする人・組織がありますが、かえってそのスタートアップの成功を阻害します。大きくスタートアップが成功すれば、どんな条件でもリターンは上がるでしょう。つまり、国内外どこであろうと日本の人・技術が花咲くことを目的とすべきです。
筆者は、厚労省・医療系ベンチャー振興推進会議座長を務めていますが、厚労省の事業では日本から海外へ、海外から日本へ、のサポートをしたいと発信しています。

アントレプレナーシップをライフワークのテーマとし、40年近く起業家育成やエコシステムづくりに取り組んできた筆者からみて、政府や都の計画・戦略は長足の進歩であり歓迎します。しかし、ここで述べたように、これらに追従するのでなく、さらに先をみて自ら未来をつくるべく行動しようではありませんか。

普通の寄稿ならここで終わるのですが、丸和育志会のコラムゆえ、もう少し書きます。
これまでにも、起業家出でよ的なキャンペーンはありました。しかし日本では、学生もが「もっと起業家が生まれるように鼓舞するにはどうすればよいのでしょう」といった他人事コメントをする場面がしばしば(自ら行動すればよいのですが)。政府・都の施策も一部そうですが、近頃は様々なところで「他人事」の匂いがします。
そこで、本コラムの自分事化のために、読者のみなさんに二つ投げかけましょう。
一つは、視点の転換・進化にトライ。例えば、自分が思ってきたグローバルとは何か?未来志向のグローバルとはどんなものか?あまりグローバルが当てはまらなければ、他の視点でも構いません、考えてみましょう。
もう一つは、自らが取り組んでいる事業や仕事、活動の進化。視点を変えれば、進化の切り口が見えてくるのではないでしょうか。大胆なものから身近なものまで、アイデアを出してみましょう。
そして、未来をつくる仲間とつながり議論すれば、突破口が見つかるかもしれません。