コラム
【ELPASO会員コラム39-2】校長室から思いを馳せる②
2025年6月27日
事務局
2025.6.27
東京都立西高等学校長 土方 賢作
西高校は東京都教育委員会により進学指導重点校に指定されており、高い志をもった生徒一人ひとりの進路希望の実現に向けた特色ある教育活動を行っています。
具体的には、国際理解教育、理数教育、探究活動、教育のDX化(デジタルスキルの向上)等の推進に重点的に取り組むとともに、豊かな教養の涵養も大切にしています。
これらの基盤となる言語能力の向上にも力を入れており、スピーチやディベート、読書会など多様な言語活動を重視するとともに、年間25冊の読書を3年間続ける指導を行っています。
国語科の教員が中心となって作った選書リスト「西高の120選」は、生徒に読んで欲しい古今東西の名著をはじめ、現代社会や文化、思想に言及した書籍も含めた、多様なジャンルの本をリストアップしたものです。
校長としても講話の際にはなるべく本を紹介するよう努めています。
今年3月に実施した令和6年度修了式において、直前に実施した在校生と卒業生とのパネルディスカッションで話題になった「西高生の多様性」について触れ、以下のように生徒に話をしました。
「西高生の強みは多様性」という言葉が強く心に残りました。
「多様な個性の持ち主がいて、自分とは異なる存在に敬意を払い、尊重し、認め合う」これが西高の文化であり、西高生たる特質だと思います。
最近読んだ本の一節に、これを裏付ける素敵な文章を見つけました。紹介します。
立命館大学教授で哲学がご専門の千葉雅也さんの著作『現代思想入門』の中の一節です。この本は「西高の120選」の中の1冊でもあります。
~「グレーゾーンにこそ人生のリアリティがある」
秩序からの逸脱というと、暴走する人を褒め称えているみたいに聞こえるかもしれませんが、ちょっとイメージを変えていただきたいのです。それは自分の秩序に従わない他者を迎え入れることを意味します。それにはトラブルがつきもので、人と人が傷つけ合うことがまったくないなんてことはありえません。多かれ少なかれ、自分が乱される、あるいは自分が受動的な立場に置かれてしまうということにも人生の魅力はあるのです。
このことからして、すでに話は※脱構築的になってきています。※著者のキーワード
自分で自分の行動をきっちりコントロールでき、主体的・能動的であるべきだ、受け身になるのはよくない、という考え方が世間には強くあるし、自己啓発でもよく言われます。だけれど、我々は他者とともに生きている。他者に主導権があり、それに振り回されることがしばしばある。そのことがイヤなようでもあり、そこにこそ楽しさがあるようでもある。この両義性が重要です。能動的であればよいというわけではないのです。かといって、受動的になりきってしまい、他人の言いなりになってしまうのはそれはそれで困ったことです。だから、能動性と受動性についても、どちらがプラスでどちらがマイナスかということを単純に決定できないのです。
このように、能動性と受動性が互いを押し合いへし合いしながら、絡み合いながら展開されるグレーゾーンがあって、そこにこそ人生のリアリティがある。~
「西高生の強みは多様性」この背後には、自分と他者との関係にうまく折り合いを付けることができる、西高生の良さがあるのだな、と思いました。
2年生の国語の授業で行ったアンケートによれば、「本を読む場合、電子書籍が良いか、紙の書籍が良いか」という質問に対して、紙の本が良いと答えた生徒の方が圧倒的に多かったそうです。
デジタルネイティブの生徒たちでも、各人各様に紙の書籍の良さを感じているのだと思います。
これからもずっと読書を楽しめる人であって欲しいと願っています。