2024.10.25
株式会社エイビット 代表取締役社長
檜山竹生
前回までに、起業や企業経営において重要な「ビジネスタイミング」と「ビジネスモデル」について述べました。
これらは、スタートアップにおいて欠かせない要素であり、すべての創業者が経験しているはずです。自分が立ち上げた会社をどう発展させたいか、誰もがそれぞれの思いを持って創業したに違いありません。素晴らしい技術で世界を驚かせたい、会社を大きくして多くの従業員を雇いたい、あるいは上場やM&Aでエグジットして大金を稼ぎたい、そうした期待が原動力となったはずです。
しかし、私も含め、創業者には資質というものがあるようです。
大別すると、次の3つのタイプに分類できると思います。
– 卓越した技術を持つ匠
– 組織作りが得意で人材を活用できる人
– 情報や金銭を巧みに操れる人
今風の役職をつけるならば、それぞれCTO、COO、CFOといったところでしょう。
この優秀な3人が集まれば、CEOは決断力(良し悪し含めて)と外部へのコミュニケーション能力があれば、良い会社を作ることができます。
しかし、創業時にこのすべてを持っている「スーパーマン」は非常に稀です。そのため、ある時点までは以下のような経営スタイルになるのが一般的です。
・卓越した技術を持つ匠
このタイプの創業者は、独自の技術で世間を驚かせ、社会に影響を与える力を持っています。
エンジニアリング分野だけでなく、飲食やサービス業においても、スタート時のダッシュは順調でしょう。一定の期間、小さな組織で高収入や社会的な評価を得ることができるため、最も多い起業モデルだと思います。
しかし、技術に重点を置くため、組織作りやマネジメントに手が回らず、規模拡大が限界に達するのが早い傾向にあります。
また、技術を過信し、自己完結型の姿勢になりがちで、組織は小さくまとまりがちです。「こんなに良いものを作ったのになぜ売れない?」や、「顧客の要望に柔軟に対応できない」といった問題に直面することも少なくありません。
・ 組織作りが得意で人材を活用できる人
このタイプは、親分肌で人懐っこいが、技術的な部分には距離がある人です。
人材を引き寄せ、自然とボス的存在になることができる「人材磁石」のようなタイプです。
付き合いが上手で、人脈を広げることが得意なため、技術や金融に強い人が周りに集まってくれば、組織作りを上手に行い、ビジネスを拡大できます。いわゆる「細胞分裂的」に組織を自然に拡大できるリーダーシップを持っており、急成長することも可能です。
ただし、人の吸引力に頼る組織であるため、時に組織が分裂してしまうこともあります。
・ 情報や金融を巧みに扱える人
このタイプは、頭脳明晰で情報収集力や金融知識に長けた人です。
コンサルティングや投資業などで個人として十分な収入を得ることができる一方で、事業をレバレッジしてIPOやバイアウトを目指す人も多いようです。
大規模な組織に成長させるファンドやコンサルティング事業も存在しますが、基本的には個人の能力に依存するケースが多いです。
0から1へ、そして1から100へ
これらのスキルを持つ人が個別に事業を始めた場合、タイトル通り「0を1にする経営」を実現することになります。例えば、連日行列ができる地元のラーメン屋のオーナーが、激務で体調を崩し倒産の危機に直面したとします。
しかし、数値経営に詳しい信頼できる仲間のアドバイスで弟子を取り、多店舗展開に移行した結果、オーナーの求める品質は多少妥協したものの、確実に業務が楽になり、さらに全国展開するまでに成長しました。
これが「1を100にする経営」の瞬間です。
ここからはスケールが確実となり、企業価値も拡大します。
多くの有名企業やチェーン店も、最初は目立たない一店舗からスタートし、ある時期に急成長を遂げています。創業者自身が、当初から大規模展開を意識していたわけではなく、ある時点で突然変化が起こることが多いです。資金の目途がついたり、組織マネジメントを導入したり、永続的な需要が生まれたりすることが、成長のきっかけとなるでしょう。
組織と成長の転換点
創業者は最初は個人的なビジョンを追求しますが、ある時点でマス(大規模)を意識する必要が出てきます。その段階で、企業は自分だけのものではなくなり、完璧主義から寛容なスタイルへの転換が求められます。この時点で、前述した3つのスキルを持つ人々が連携し、一台の機関車が多くの車両を引っ張る形から、複数の動力を持つ列車が安定して進むような形へと成長していくのです。
このように、小さくスタートした企業が大企業へと成長し、創業者のマインドセットも変化していくのです。例えば、国内ではユニクロや京セラ、ソフトバンクが、世界ではマイクロソフト、アップル、テスラ、アマゾンなどが、創業者の手腕によって世界的な大企業に成長しました。
このようにして起業が成功し、ある程度の成果を上げた後に訪れる「転換点」をどう乗り越えるかについては、今後、丸和育志会でのさまざまな機会を活用し、みなさまと議論していきたいと思います。