2023.3.24
本荘事務所代表
本荘 修二
前回のコラムで、日本国政府と東京都の新たなスタートアップ計画・戦略に絡んで、「グローバル」というキーワードから問題提起しましたが、今回は「ダイバーシティ」について。
経営共創基盤の冨山和彦氏は、政府のスタートアップ育成5カ年計画について、「裾野を広げるには実効的ですが、グローバル視点が脆弱です。」と指摘しています(出所:「日本のスタートアップは、なぜ世界で活躍できないのか」ITmedia)。グローバルについては、前回コラムでお話ししましたが、裾野の面でも問題提起させて下さい。
政府も都もユニコーン(時価総額千億円超の未上場企業)に目が行っていますが、経済的な成果が欲しいのかもしれませんが、画一的な印象があります。とにかく日本発ユニコーンだ!では視野が狭い。イノベーションこそ多様な視点が大切であり、多様な人・組織からなるエコシステムを目指すのが自然でしょう。
小さな規模の起業に意味があるのかといった見方をする記者やメディアも少なくありませんが、欧米などアントレプレナーシップ先進国では、スモールビジネスとしての起業の研究や支援は昔から熱心です。それに社会起業など、ユニコーンを目指さないが価値あるスタートアップは色々とあります。
また、企業は人なり、という言葉があるように起業は人が鍵です。政府も都もスタートアップの数を目標(政府は10万社;都は起業数5年で10倍)としていますが、大胆に広い視野で起業人材を育む必要があります。また、多様な人材の組み合わせがイノベーションを起こしやすいと知られています。
そこで、多様な人の活躍と、多様な起業の振興という、ダイバーシティの視点で考えてみましょう。
- 海外
米国では移民やその2世らがスタートアップで活躍していますが、英国政府も海外の優れた人材が英国で起業するサポートをするプログラムを提供しています。日本政府も世界の人材を日本にとうたっていますが、いくつも壁があります。
都の資料で触れられているように法制度が厄介ですし、外国語になかなか対応できない人・役所・組織が大多数です。また、スキルの高い人材にとって日本は海外より給与水準が低く、円安でさらに悪化しています。今や日本は人件費の安い「オフショア」化したと言う人もいるくらいです。
筆者は2014年自民党「起業大国No.1の実現」( https://www.taira-m.jp/2014/05/no1.html )に少しばかり貢献をし、海外人材の日本での活躍を進言しました。人材獲得競争が激化するいま、早急に大胆な施策を実現していただきたいものです。
- シニア
「シニア」という言葉は、都の資料にわずかに一回出てきただけで、政府計画には見られません。
起業というと若い人を連想する方が多いでしょうが、日本では50歳以上の起業家が2012年は男性で5割を超え(51.8%)、女性も1/3を超え(35.3%)て、さらに比率が高まる見込みです(1979年男性23.7%、女性15.0%)【出所:中小企業庁/過去1年間に職を変えた又は新たに職についた者のうち、現在は会社等の役員又は自営業主となっている者を起業家と定義(兼業・副業の起業家は含まれない)】。
書籍「ライフシフト」が一大ムーブメントを巻き起こし、人生100年時代に向かう今、シニアの起業は重要なテーマです。政府や都はあまりシニアに目を向けていませんが、数と質の向上のためシニア施策の充実が求められます。なお、筆者は本テーマに取り組むため、2022年からライフシフト大学で講師を始めました。
- 女性
「女性」の起業については、女性活躍の文脈で都の資料にわずかに出てきますが、政府計画には見られません。
女性起業家は、男性起業家とは違った良さがあり、起業チームに女性がいるスタートアップの方が成功しているという研究結果もありますが、世界的にジェンダーバイアスで女性はハンデを負い、中でも日本は厳しい状況です。
筆者は2010年に女性起業家コミュニティ「SPARK!」(現在は休止)の創設メンバーとなるなど、長らく女性起業家をサポートしてきましたが、次第に女性の起業が注目されるようになってきました。
ここまで、海外、シニア、女性をあげましたが、これに限らず多様な人々がスタートアップとそのエコシステムで活躍することが大切です。次に、多様な起業について。
- 社会起業
政府や都の戦略では触れられていませんが、丸和育志会のテーマの一つでもある社会起業は、日本で世界で求められています。問題解決のためには、ユニコーンだけでなく社会起業も振興しましょう。
ちなみに筆者が役員を務めているNPO法人エル・コミュニティ(福井県鯖江市)の竹部美樹代表が関西財界セミナー賞2023の輝く女性賞に選ばれました。成功例として、他の地域に経験・ノウハウをシェアする貢献もしています。
- 大企業
政府や都の戦略では触れられていませんが、スピンオフやカーブアウトなど大企業からの起業は重要です。日本は大企業天下になって久しいですが、スタートアップ・エコシステムへの参加・貢献はまだまだ乏しいのが残念です。
筆者も大企業の事業創造のアドバイスを続け、経産省の始動Next Innovatorメンターを務めていますが、日本の大企業の多くは人材も技術も金もあるのに事業創造は上手ではなく、スタートアップとの連携を志向していますが苦手です。米国ではスタートアップのExitの大多数が企業売却ですが、日本では大企業のスタートアップ買収はまれです。つまり、大企業をエコシステムで形だけでなく実際にアクティブにすることが、日本では急務です。
ここでは社会起業と大企業をあげましたが、これに限らず様々なタイプのスタートアップやエコシステム参加者が大切です。計画経済ではイノベーションは生まれません。多様性あふれるカオスからの創造、それをかき混ぜることで化学反応が加速する、そんなエコシステムを目指したいところです。