「メディアをビジネス視点で検証すると・・・」 ③ 広告ビジネスの黄昏
まずタイトルを見て疑問に思った人が少なくないでしょう。
何故なら日本の広告費は過去20年間、総額で6~7兆円ほどで推移し、決して減少傾向ではないからです。その通りですが、広告の内実はこの10年で一変しました。外形的にはマスメディア(新聞・雑誌・ラジオ・テレビ)が減少を続け、インターネットが一人勝ちしています。
ただしこれは、単にメディア間競争での優劣ではなく、広告ビジネスの実態が変わってしまったことを意味します。
マスメディアとネットの関係では、まず04年にラジオが抜かれました。次に雑誌が06年、新聞が09年、そしてテレビは19年です。この間にマスメディア全ての減少分は、まるまるネットが奪って行った恰好です。
「義理・人情・根性・酒の量で広告営業は決まっていた」と、某社広告トップは言います。
その古き良き時代は遠く、今や「データ分析で広告効果を説明しないと、経営陣は納得しない」となりました。以前はどのメディアに幾ら出稿するかを決めれば、後は「酒の量」の世界だったようです。
ところが今は、出稿した時点がスタートライン。時々刻々と入って来るデータに基づき、商品キャンペーンへの広告効果分析に現場は忙殺されるそうです。
大手代理店も変わりました。
電通の役員は雑誌のインタビューで、「我々は、もはや広告会社ではない」と応えました。スポンサーの商品を、どのメディアでどう告知するかだけでは生きていけなくなったからです。クライアントは何を作るべきか、どう作り、流通をどうするか、そしてどう売るのか。この一連をコンサルする会社に変わって行くそうです。
この結果、かつての体育会的なノリの職員は減り、データに触れる書斎派が幅を利かせています。接待が激減したのは言うまでもありません。
資生堂はこんな宣言をしました。「媒体費に占めるデジタル比率を90%以上にする」。
つまりテレビなどマスメディアをほとんどやめる方針です。例えばリアルな店頭販売では、売上に対する利益が1~2割です。マス広告・店頭での販売員・百貨店などのコストがあるからです。
ところがECに置き換えると、価格が一緒なら利益率は倍以上です。つまり総売上が半減しても、依然利益総額は上となります。メーカーの人件費も削減でき、どちらが合理的かは明白というのです。
マスが当たり前だった時代、広告ビジネスの現場では「ボタンを押すだけで何千万・何億円というお金が動いた」と言います。
それが今や「グランド10週して、ようやく何百万円」という感覚だそうです。説明責任が求められ、やるべきことが増えたからです。
如何でしょう。
“黄昏”としたのは、旨い汁を吸えた仕事が消えていくという意味です。ただしデジタル発想で広告を見られる人には、黎明期です。
DXが言われる昨今ですが、広告ビジネスも既に内実が大きく変わっています。
次世代メディア研究所所長
鈴木祐司