コラム
【ELPASO会員コラム42-1】明日から本気出す、を今日で終わらせる心理学
2026年2月27日
事務局
2026.2.27
信州大学 菊池 聡
高い志をもって何事かやり遂げようとしている皆さんのため、これから三回にわたって、どこかで役に立つ(かもしれない)心理学の話をお届けします。
まず、目標の達成に「モチベーション」は欠かせません。心理学用語では「動機づけ」と呼びますが、いわゆる「やる気」ですね。このモチベーションを高く保ってこそ、苦境にくじけず、粘り強く目標に向かって行動できるわけです。
それはわかっていても、やる気出ないことありますよね。だって人間ですもの。
なかなか成果が出ないとき、疲れているとき、人間関係で嫌なことがあったとき、誰でもモチベーションは下がります。
とはいえ「今日はやる気無い、明日から本気出す」と構えていると、目標は遠ざかるばかりです。
「やる気」はどうすれば引き出せるのでしょうか。よくある方法は、ご褒美で釣る、自分を追い込んでみる、あるいは思い切って休息をとる、でしょうか。どれも状況によってある程度は有効なのですが、科学的な心理学が明らかにしたシンプルかつ効果的な方法があります。
やる気を出すためには、「やる」。それだけです。
まず小さな事でも行動すると、その達成感が次のやる気を高め、さらなる行動につながるのです。
私たちは、「やる気を高めて」→「行動する」と素朴に考えがちですが、それは一面の真理にすぎません。それよりも、まず「行動する」ことが「やる気」を引き出す、という関係こそ重要なのです。
たとえば、こんな経験がありませんか。部屋の片付けが面倒でやる気が出ない。でも、いよいよ仕方がなく、少しだけでも片付けておこうか、と始めると止まらなくなってしまう。本を本棚に並べるくらいのつもりが、少し整理されてくると、この際ここもきれいにしよう、あれは捨てよう、ついでに模様替えをしてしまえ、とどんどん捗っていきます。
この心理プロセスは広く見られるものです。つまり、人が最初に行動を起こす時には大量の心的エネルギー(資源)が必要なのですが、いざ動きだせば、次の行動は比較的簡単になる「慣性の法則」が働くのです。いわば、やる気は行動の後からついてくるわけです。
いやいや、その最初の行動ができないから困っているのですよ、最初のやる気が出なくて!と思われる方もおられますよね。
もっともです。そこで戦略というか工夫が必要です。
最初の行動が起こせないのは、多くの場合、行動目標が高いまま動こうとすることに起因します。行動目標は、できるだけ小さく、簡単で具体的なものに分解しましょう。これを学習心理学ではスモールステップの原理と呼びます。
たとえば、海外での活躍を目指して英語をマスターしたい、これは立派な志です。ただ、抽象的で行動に移しにくいですね。これを分解すれば「毎日英語の勉強をする」になりますが、まだ不十分。さらに小さく具体的行動に落とし込みましょう。たとえば「1日3つ英単語を覚える」、これなら簡単に行動できそうですね。小さすぎるのでは、という心配はご無用です。何より、まずは小さな勝ちぐせをつけることが大切なのです。
スモールステップは「39度の熱にうなされていてもできるくらいに簡単に」と言った人がいますが、至言です。これくらい容易なら、おそらく無理なく一歩を踏み出せるでしょう。もうひとつ、行動を起こすには、環境から追い込むことも大切です。宿題があるのに、ついついスマホを見てしまう人は、スマホを引き出しに入れて鍵をかけてしまう、といった制約をかけるわけです。
この「やる気」の問題に限らず、心理学の研究から導かれる重要で汎用的な提案があります。それは、やる気とか根性とか高い意識とか(それはそれで大切なのですが)、そうした気まぐれな人の心理をあてにしない「仕組み」を作りましょう、ということです。
いつかはやりたいと思っている目標があるならば、まず小さなこと、好きなこと、簡単なことから手をつけましょう。それが次の行動を生み、やがて大きな達成につながっていきます。
こうした心理学のお話は、次回も続きます。