コラム

【ELPASO会員コラム40-2】ターニングポイントと計画的偶発性

2025年9月26日

事務局

2025.9.26
株式会社フェニクシー 代表取締役
橋寺由紀子

人生やキャリアの中には、誰にでも「ターニングポイント」と呼べる瞬間があります。
転機、分岐点、転換点——。呼び方はさまざまですが、その節目は進む方向を決定づけ、ときに人や組織を大きく成長させます。近年、私たちを取り巻く社会は「組織中心社会」から「個人中心社会」へと移り変わりつつあります。権威や規律に従うのではなく、自らの決断やリスクテイクが求められる時代。さらに「安心して挑戦できる社会システム」も議論されはじめています。
自由度が増した今だからこそ、訪れるターニングポイントをどう活かすかが問われているのです。

私はこのターニングポイントを二つの軸で整理しています。
ひとつは「積極的か消極的か」。もうひとつは「予測可能か不可能か」。
この二軸を組み合わせると、四つの象限が浮かび上がります。積極的で予測可能なものは「理想」、消極的で予測可能なものは「妥協」、積極的で予測不可能なものは「挑戦」、そして消極的で予測不可能なものは「受容」です。
私自身を振り返ると、むしろ「受容」や「妥協」の経験が、その後の大きな糧になってきました。
製薬会社で14年間研究職を務めた後、出産復帰直後に突然「上場担当」として経営に関わることを求められたとき、それはまさに望んでいない「受容」でした。
しかし未知の領域に足を踏み入れたからこそ、資本市場のルールを学び、経営者としての視点を獲得することができました。「受容」がやがて「挑戦」へと変わり、その経験が今のキャリアの基盤となったのです。

キャリア研究の分野では、スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が提唱した「計画的偶発性理論」がよく知られています。彼は「キャリアの八割は偶発的な出来事によって形づくられる」と指摘し、偶然を待つのではなく、自ら呼び込み活かすことを説きました。
そのために大切なのが五つの姿勢——好奇心を持ち続け、挑戦を諦めず、変化に柔軟で、楽観的であり、冒険心を忘れないこと。こうした姿勢を意識することで、予期せぬ出会いや出来事が新たなチャンスに変わっていくのです。

ターニングポイントに直面したとき、大切なのは立ち止まらずに「考え、決断し、行動し、振り返る」こと。このサイクルを繰り返すことで、次の挑戦を支える自己効力感が育まれます。
もちろん、専門性を磨き、自分がどの程度のリスクを取れるのかを見極める冷静さも欠かせません。予測不可能で制御不能に思えるターニングポイントも、行動や心構えによって意味が大きく変わります。
偶然を恐れるのではなく、自分の成長のきっかけとして受け止める。そんな柔軟さと前向きさこそが、これからの時代を生き抜く力になるのではないでしょうか。



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