コラム

【ELPASO会員コラム38-3】意思決定について考える(2)

2025年4月25日

事務局

2025.4.25
公認会計士 野村 滋

前回の終戦直後からバブル経済時期までの意思決定に続き、失われた30年間の意思決定について考えます。

バブル崩壊から失われた30年(1995年から2025年)
政府、日銀が不動産の投機防止のために資金規制を行った結果、金融機関は貸付金の早期回収に走り、不動産や株式が暴落し、バブル経済の崩壊へと向いました。
首都圏の地価は70%程度下落し、不動産担保価値は低下し、金融機関から借入金の返済に迫られた企業の多くが倒産するに至りました。
金融機関も担保価値の毀損によって不良債権が急増しました。
政府は公的資金の投入によって不良債権の早期解決を金融機関に指示しました。
金融機関は大量の不良債権を早期に解消するために、いわゆるバルクセールを行い、きわめて低い価額で不動産担保付債権を外国人投資家に売却しました。
多くのゴルフ場も同様に外国投資家の手にわたり、会員権は預託金の返済が反故にされました。名門ゴルフ場の会員権相場もピーク時の10%程度に下落し現在に至っています。
多くの企業は減量経営へと舵を切り、新規採用の大幅削減、必要な投資の手控え、研究開発予算の削減等を行いました。
企業の緊縮経営で稼得された利益も、再投資に向けられることなく、金融機関への債務返済と内部留保の積み増しに充てられました。
大企業は販売価格を抑えるために原価の削減を推し進め、賃金を抑制し、納入価格を抑えることにより自社の利益を確保することが行われました。
過去30年間にわたって先進国で日本のみが賃金の上昇がなく、GDPも拡大しないデフレが進行し、「失われた30年」と呼ばれる時期が継続しました。
海外ではブラックフライデーやリーマンショックのような金融業界発の景気後退要因はあったものの、中国の経済発展やアメリカへの資金と人口の集中により順調な経済の発展を続けてきました。

では、日本とアメリカでは何が大きく違ったのでしょうか?
この違いは人事制度の違いに起因することが大きいと考えます。
日本では終身雇用制が長く用いられ、官界と民間の人の移動や、企業間の人材の移動がほぼ皆無です。このような人事の固定化のもとでは、過去の因習にとらわれ新たな発想が生まれることは期待できません。
その象徴的なものが、最高経営責任者(CEO)の資質の差ではないでしょうか。
日本では、企業の創業者や創業家一族がCEOの場合、リスクはすべて自身が背負うという覚悟ができているので、迅速で適切な意思決定を行うことが期待でき、その成功例も多くみられます。
他方、多くの上場企業にあっては、長い間従業員としてまたは取締役会のメンバーであった中から、比較的短期間(4~5年)CEOとしての役職を担う生え抜きの経営者が選任されることが多くみられます。
失礼ながら、大多数のCEOは与えられた期間を無事に過ごすことを最大の任務と考え、大きな変化や改革を避ける傾向がみられます。具体的には、意思決定に当たってはリスクを取らない。同業他社や周囲の状況と歩調を合わせる。業界団体を通して行政指導のような公的ガイドラインの設定を働きかけ、それに準拠する。
このように、リスクを伴う意思決定をできるだけ先延ばしにするというのが失われた30年間の傾向と考えます。
以上では経済面において考察しましたが、政界や官界並びに教育界においても同様のことが言えると考えます。
海外では、CEOは社内昇格でなく、指名委員会などの指名する外部からの人材が登用されるのが一般的です。CEOは業績が期待通りに達成できない場合は解任されます。
そのためにCEOは過去のしがらみに捉われることなく、就任当初から経営改善のための方策を実施していきます。方針決定のリスク分析では、案件の成功確率が51%以上あれば実行に値するというものです。
このように迅速に意思決定を行い、強いリーダーシップを発揮することにより、企業業績の向上と自身のキャリアアップを図っていくのが欧米の一般的な方式です。
日本でも、外部からCEOが就任するケースが増加していますが、適切な意思決定で経済が上昇気流に乗ることを期待しています。

結び
2回にわたり「意思決定」について考えました。
個々の意思決定が適切性については歴史が結論を教えてくれると考えます。
しかし「意思決定」行わず、強者(例えばトランプ?)に盲従することは国を亡ぼすとの危機感を持つべきと考えます。
いかがでしょうか?



ページトップ