第7回ブログ(2015.10.)理事;富田克一 「ITの変遷から感じること」

私は、コンピュータの開発に始まって携帯電話事業に携わるに至るまで、40有余年IT産業に身を置いてきました。従って、この目線からしか世の中を見ていないITバカでありますが、現在のICT革命の推進のエンジン事業を担ってきたという自負もあり、その位置で仕事ができた幸運に感謝もしています。この立場から、今をどう感じているか述べたいと思います。
革命の推進役の一つであるパソコンもケータイも未だ30年強の歴史しかありませんが、今や世界を席巻し、あって当たり前の道具になっております。インターネットという舞台を得て、まさにアッと言う間に、世界同時進行で普及しました。その結果、世の中はどう変わったでしょうか。
モノに価値が置かれたモノの時代から、モノによって何を為すか、何ができるかに価値がシフトしているのもその変化の一つです。ここでモノとはハード、ソフトを含みます。パソコン事業で大成功したIBMが、創業から僅か25年(2005年)で撤退しました。相前後して、あのビルゲイツも一線から退きました(復帰の話もあるものの)。モノそのものの事業(製造業としての)価値が無くなったからでしょう。10年前に、日本で携帯電話器が突然”0円”と打ち出されたのは、典型的な例で、モノはタダでいいから、通話やメールの通信回線使用料で回収するという事業者モデルでした。その方法論の是非はともかくとして、消費者寄りの発想であると言えます。
余談ですが、私が製造業の現場にいて、汎用コンピュータ事業に携わっていた頃(1960年代後半)、目に見えないモノとしてのソフトウェアすら、OSを含めてタダでした。ソフトの有償化が定着したのはパソコンの登場以来で、「パソコンもソフトが無ければただの箱」などという言葉が必要な時代でした。
モノの時代は、均一同質で少品種大量生産されたモノを、みんなが同じように持つ横並びの時代でした。極端に言えば持つことに価値がありました。しかしながら、この時代の後期には、会社や家庭に入るモノの他に、個人が所有するモノが増え、あいつと同色のウオークマンは持たないといった個性=多様が前面にでるようになり、横並びが崩れ始めました。パソコンやケータイはまさに個人の情報ツールとして、多様な形で普及しました。企業の市場でも同様で、まさに、大衆の時代から、個人の時代への変化と捉えることができます。ある経営者は、事業者(製造業)の立場から、個衆(多様な価値観を持つ個人の集合体)の時代と表現し、多品種少量生産を超え、超多品種一品生産で対応しなければならないと述べました。個衆という言葉は言い得て妙と感じます。
モノの時代からのシフトがあるとはいえ、モノの価値がなくなる訳ではなく有り様が変わることになります。時代は変われども、一次産業、二次産業も必須要件であります。ただ有り様が変わるのです。多様なモノ、サービスが共存して豊かな社会が形成されつつあります。ここには、排他的でなく、なんでも受け入れる寛容性もあるように感じます。「漁師さんの森づくり」畠山重篤(講談社)の中で、食物連鎖として「森林の腐葉土→植物プランクトン→動物プランクトン、牡蠣、海草類→鰯等の小魚→鰹等の大型魚等」があり、漁業のために漁師さんが森作りをしているところがあるそうです。なんとも壮大な話ではありませんか。
事業も数を追いかけるのが主流でしたが、質を追求する事でその立ち位置を確立する事ができます。これまでもその例は少なくありませんが、もっと増えると思います。お隣韓国では財閥5~10社で総生産の75%を占めると言われております。これは異常であると同時に、多様化する時代に逆行した傾向で、総産業に大企業の占める割合は減少するのが世界の流れではないでしょうか。
政治の世界でも地方創生が叫ばれていて、中央でやるべき事、それ以外は地方に任せる事の分担が課題となっていますが、大企業の役割、大企業にしかできない事をしっかり見据えれば、
規模の大小はあるものの、ビジネスチャンスはすぐ側にたくさんあります。
ただそれ故、競争相手もたくさんいます。それも世界中にいます。冒頭申し上げたように、今起こっている変革の特徴は、世界同時という点と、その変革のスピードにあります。従って、起業という視点では、その事業の位置をワールドワイドに確認する事が肝要です。たとえ国内での展開を考えているとしても、自分の立ち位置、現状認識(ファクトファインディング)をしっかり分析する必要があります。その上で、いつまでにどうするという事業目標を立て、現状と目標のギャップを明らかにし、そのギャップをどういう時間軸で埋めるかの計画と、やり遂げる強い意志が求められます。ここで従来にも増して重要な事は、遂行のスピード感です。競争相手も現状にとどまっておらず進化しています。激しいスピードで動いています。私は所謂旧来型大企業とベンチャー生まれの大企業に属した経験がありますが、上述の、強い意志、スピード感という2点で、企業間の活力の差を感じました。
また、事業はチームプレイであり、それぞれの担当に役割、責任をもたせてやる確たるフォーメイションが必要です。この時、何もかも自己完結でやれれば、それはそれで良いのですが、時代は垂直統合型事業から水平分業型事業へ移りつつあり、他人の力を利用する事が、スピード感を持って質の高い事業を展開するのに、不可欠になっています。事業体制も多様にあり得て、それを可能にする仕組みや手段も、従前以上にあります。
変革はチャンス、変化を先取りし、願わくば変化を起こし、世界に飛躍していきたいものです。言うは易く行うは難し。