第19回ブログ(2017.2)一般社団法人 チーム医療フォーラム 代表理事 秋山和宏;「ポスト“post-truth”world」

私は中学の頃から理想社会を夢見てきました。
理由は自分でも分かりません。
ただ、我が身の微力を思い知る度に、理想社会の実現は遠いとも痛感しています。
ですが、ここ十数年のインターネットの誕生、発展によって
「世の中を変革できるかもしれない」との思いを強く抱くようにもなっています。
複雑系の研究に摂動敏感性というものがあります。
部分のわずかな変化が全体の大きな変動をもたらすことを指しますが
ネット社会はこの摂動敏感性を有し年々その感度が上がっていると感じます。
「北京の蝶の羽ばたきがニューヨークでハリケーンを引き起こすかもしれない」
というバタフライ効果の喩え話は聞いたことがある方が多いのではないでしょうか?
インターネットで世界中の人々が縦横無尽に繋がった今、
小さな感動が世界中を駆け巡り、大きなムーブメントを起こすことがあります。
私は社会起業家の端くれと自認していますが、
ちっぽけな存在であっても、
その志が社会の正義やニーズに叶うのであれば、
多くの人々の共感を生み大きなムーブメントを起こすことが出来ると思っています。
社会起業家にとって、願ってもない時代がやってきているのです。

“post-truth”という用語をご存知でしょうか?
英オックスフォード大出版局は毎年、注目を集めた単語を発表していますが、
2016年は“post-truth”を選出しました。
「客観的な事実や真実が重視されない時代」を意味する形容詞です。
日本語では「ポスト真実の政治」などと表現されます。
世論形成において、客観的事実が
感情や個人的信念に訴えるものより影響力を持たない状況になってきたと言われます。
徹底的な事実確認をした客観的事実よりも、
多くの人々が反応するメッセージのほうが大事な社会になりつつあるのです。
極論を言えば、「真実よりも面白い話のほうが重要」ということです。
この1月20日にアメリカではトランプ大統領が誕生しました。
新大統領は“post-truth”worldの申し子なのだと思います。
大変な時代が訪れようとしています。
正義が正義として、まかり通らない時代になってしまうのかもしれません。
理想主義者にとって、絶望的な時代になってしまうのでしょうか?

いいえ、そうは思いません。

そのような時代、社会であればこそ、
社会起業家を名乗る者たちは、
ポスト“post-truth”worldを目指さなければならないと思います。
ネット社会は、“post-truth”が絶対優位な社会ではないはずです。
人間の弱き一面が摂動敏感性の性質によって、
一時的に強調されているだけなのだと思います。
発展途上の過渡的な現象と捉えるべきでしょう。
問題は「私たちがどのような人間観を持っているか」だと思います。
人間とは歴史をかけて理想を希求してきた存在であると私は信じています。
そう信じる者たちの存在によって、
必ず、ポスト“post-truth”worldを実現できるのだと確信しています。

これからの4年間は、文字通り激動の時代になるのかもしれません。
しかし、それも長くは続かないはずです。
人類の叡智が、大きな揺り戻しをかけてくるはずです。
“post-truth”時代を経験することによって
それを経験しない場合よりも
より素晴らしき時代、社会を
私たちは創り上げることが出来るような気がします。